同時多発テロ犯を一網打尽にする作戦の後方支援のために上空から監視していた「無人攻撃機(MQ-9 リーパー)」
監視場所で、自爆テロのための爆弾の存在を確認。逮捕ではなく、抹殺指令を求める軍、抗う政治家たち。そして、その現場付近に、母が焼いたパンを売る少女の姿が……
今や、ドローンといえば、上空から自由自在に空撮する便利なマシーンというイメージがある。だが、私がその名を知ったのは、無人攻撃機MQ-9 リーパーだった。
フレデリック・フォーサイスの小説『キルリスト』(角川文庫)でも描かれたが、米国は、遠く離れた自国領土から世界各国の上空にリーパーを飛ばし、ミサイル攻撃を仕掛けているという信じがたい現実が、今なお続いている。
同書は、2013年に発表され、翌年には日本でも刊行された。同書が刊行される直前に朝日新聞で、米国が無人攻撃機を用いて、イエメンとパキススタンだけで、2900人から4500人を暗殺したと報じられた。
国境を越え、勝手にテロリストと決めつけた上で、裁判も行わず、外国人を殺害する行為にどこに正当性があるのか、という議論が活発に行われたという話を聞いたことがない。
今回紹介する映画『アイ・イン・ザ・スカイ 世界一安全な戦場』も、無人攻撃機による暗殺がテーマだ。映画が製作されたのは、2015年(日本での公開は、16年12月)だから、朝日新聞やフォーサイスが、取り上げた時期に近い。
長年追い続けてきたテロリストグループが、ケニアの首都ナイロビに集まるという情報をキャッチした英国軍は、米軍にMQ-9リーパーによる監視を依頼する。かつては植民地だったケニアも、今は立派な独立国なので、テロリスト逮捕は現地警察に託されているのだが、英米両軍は、ハイテク兵器で後方支援しているわけだ。
ところが、監視しているアジトで、今まさに自爆テロを行おうとしているテロリストと膨大な爆弾の存在が明らかになり、事態は急変する。
逮捕ではなく、即刻抹殺したい――。現場責任者の大佐(この役を、英国の名女優ヘレン・ミレンが務める)が、ロンドンから経過を見守っている軍幹部や政府の閣僚に了承を求める。ところが、政治家たちは、他国でのミサイル攻撃による暗殺を決断できない。
ぐずぐずしていたらテロリストたちが、アジトを出て、自爆テロを実行してしまう。
決断がたらい回しにされている最中、アジトのすぐそばで、少女がパンを売り始めた。
攻撃対象外の者を死亡させたり、負傷させたりする巻き添え被害のリスクが高いために、再び政府首脳の決断が難しくなる。
テロリストを徹底的に殲滅するという国家的正義と、無辜の人を巻き込まないという人道的正義が、ぶつかり合い、映画は決断の時を迎える――。
我々が享受している“平和”は、国家の非情な決断の上に保たれているという厳しい現実を突きつけるこの映画は、日本人こそみるべきだ。
◉オフィシャルサイト
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◉予告編
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